要約
本セッションでは、外務省の助成によるアジア太平洋気候安全保障研究プロジェクトから、アジア太平洋地域における気候安全保障のアプローチを定義するための先進的な取り組み、特に食料安全保障と人の移動、その相互関連性を焦点に、地球のトリプル・クライシスを乗り越えるために必要な統合的アプローチについて3つの発表と議論を行いました。食料安全保障に関して、久留島啓は、気候変動が食料不安を悪化させ、小規模農家に影響を与えることを指摘し、土地所有権、気候変動、食料安全保障についての統合的な取り組みの重要性を強調するとともに、コミュニティベースの土地管理を提案しました。人の移動に関して、パンカジ・クマールは、バングラデシュ沿岸部での調査から、環境移民の移住先の選好要因について議論し、所得や資源へのアクセスの違いが人々のウェルビーイングに影響していることを報告しました。続いて岡野直幸も人の移動をテーマに発表を行い、フィジーでの事例から、計画的移転に関する包括的な政策パッケージを注目すべき例として取り上げ、気候科学の政策への統合とともに、マルチレベルのガバナンスと国際協調の重要性を強調しました。
主要メッセージ- 持続可能な開発への貢献が期待されるアジア太平洋の気候安全保障において、土地所有権、気候変動、食料安全保障の統合的アプローチが必要である。アジアでは、気候変動が小規模農家や食料システムに影響を及ぼし、多くの人々が食料不安に直面している。土地の権利を強化し、農業の持続可能性を高め、気候リスクを軽減するためには、グローバルとローカル両方の取り組み、特にコミュニティベースの土地管理は欠かせない。こうした取り組みは、食料安全保障を改善し、アジア太平洋地域の農村開発を促進する上で極めて重要である。
- 気候リスクはアジア太平洋地域における環境移民の移住先やウェルビーイングにも影響を与えることが示された。限られた収入と資源へのアクセスが少ないことは、彼らのウェルビーイング低下にもつながるが、社会資本が充実していれば、ウェルビーイングは高くなる。環境移民のウェルビーイングと移住地の選好性を理解することは、アジア太平洋地域の環境リスクに対するレジリエンスを高めるための政策立案に役立つ。また、これらの視点は同地域における環境移民に関する政策提言に組み込まれることが期待される。
- 気候科学と政策分析を統合することは、効果的な政策を策定し、その策定における課題に取り組む上で極めて重要である。不確実性をはらみながらも気候変動による人の移動に対処する国際的・地域的な政策展開の高まりに鑑み、マルチレベルのガバナンスと国際協調の改善は今後より必要となる。気候変動モビリティを管轄する単一の国際組織や科学者グループが存在するわけではない。よって地域や国の新たな政策が、他の国々にとっても貴重な枠組みおよび教訓を提供することが期待される。