要約
本会合では、最初に、モデレーターのアンドレ・マダーが、国際、国、ローカルレベルにおける生物多様性評価の重要性とその全体像について説明しました。例として日本のローカルレベルの生物多様性評価についても触れ、地方政策の役割について言及しました。また、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に類似した政府間組織として、様々なレベルでの政策立案へ情報提供を行い、生物多様性評価に重点的に取り組む「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」について概説しました。
アン・ラリゴーデリ氏はビデオメッセージの中で、地球を取り巻く環境危機への対応に焦点を当て、生物多様性と気候変動の相互関連性を強調しました。同氏は、生物多様性と自然の寄与に関する政策関連の評価を行うIPBESの役割について説明し、これらの評価が先住民や地域社会の知識を含む多様な知識体系を活用している点に触れました。そして、IPBES が現在進めている、食料、水、健康、生物多様性、気候変動の間の相乗効果とトレードオフを評価する「ネクサス評価」、生物多様性変化の間接的要因を評価する「社会変革評価」、そしてビジネスセクターが自然界に与える影響を評価する「ビジネスと生物多様性評価」を紹介しました。最後に、生物多様性に関する理解と行動を促進するためには、IPBES評価報告書の作成やその他活動の実施をサポートする技術支援機関(TSU)と研究者との連携強化も重要であると述べました。 橋本禅氏は、はじめに、国際レベルからローカルレベルまでの政策立案に情報を提供するIPBESの役割について概説しました。IPBESは知識の不足を明らかにするための評価を実施し、今後の研究と保全活動の方向性を示すだけにとどまらず、専門家や政策決定者が評価や政策立案を行うための能力構築支援を行っていると述べました。IPBESの活動成果が「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」の採択に貢献するなど国際的な進展がみられる一方で、言語の壁や国別データが限定的であることなどの課題もあると指摘しました。さらに、日本の生物多様性評価の実施、特に「生物多様性及び生態系サービスの総合評価(JBO)」について言及しました。これらの評価は新たな研究成果を取り入れるために適宜更新されており、その評価結果が国やローカル版の生物多様性戦略や行動計画に反映されるとともに、世界と日本の生物多様性保全の取り組みの相互関連性を示す機会にもなっていると述べました。
パンカジ・クマールは、日本政府がIGESにIPBESシナリオ・モデルタスクフォースの TSUを新たに設置したことを紹介しました。またTSUの役割と責任について説明し、IGESが自らを戦略的に位置づけ、IPBESの様々な評価に関与してきたことを強調しました。
パネルディスカッションでは、日本における方法論評価の有用性とシナリオ・モデルタスクフォースTSUの役割について議論を深めました。橋本氏は、IPBESの方法論評価が進展したことにより、様々な分野の研究者と政策立案者間の効果的なコミュニケーションを促進する共通の専門用語が生成されたと述べました。クマールは、生物多様性のシナリオとモデルを設定するNature Futures Framework(NFF)について言及しました。また、シナリオ・モデルタスクフォースTSUは、NFFに関する課題に取り組むためにワークショップや議論の場を提供しているほか、NFFを現場に効果的に適用するよう目指していると述べました。会場からは、過去の国際的な気候変動に関する会議との関連性について質問があり、モデレーターが2020年に開催されたIPBESとIPCCの合同ワークショップについて言及しました。
主要メッセージ- IPBESは、政策に関連する生物多様性評価を提供し、知識の不足を埋めることで、国際、国、ローカルレベルでの生物多様性保全の取り組みに対して情報を提供する。
- IPBESが現在進めている「ネクサス評価」では、食料、水、健康、生物多様性、気候変動の間の相互関係と、生物多様性保全が他の持続可能性の課題の対処に役立つ方法を探求している。2024年後半に「ネクサス評価」と「社会変革評価」、翌年には「ビジネスと生物多様性評価」の各報告書が発表される予定である。
- 日本が実施している「生物多様性及び生態系サービスの総合評価(JBO)」では、国際的な知見を国やローカルへ落とし込み、能力開発や共同研究を通じて政策立案を強化するよう政府に提案している。