要約
本会合では、国内外から自治体のリーダーおよび専門家を招き、各地で展開されているレジリエントな社会構築に向けた優良事例・戦略を共有しながら、地域のニーズや課題に対応するとともに持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定といった世界目標の実現に資する相乗的な取り組みについて議論しました。モデレーターの高橋康夫は、世界が直面している課題を全体的に概観し、都市地域をより持続可能で気候変動に対してレジリエントな道筋に導くための地方自治体の重要な役割と、地域のニーズや既存の優先課題に応じて「地域循環共生圏(Regional Circulating and Ecological Sphere:Regional CES)」アプローチを活用することによる可能性を述べました。
はじめに、ミトラ・ビジョンクマールがフレーミング・プレゼンテーションを行い、現在の世界目標の達成にまだ不十分な点があることを示すとともに、地域主導の行動とCESアプローチの重要性を強調しました。笠井貴弘氏は、「佐渡市地域循環共生圏の創造による持続可能な島づくり推進条例」、「佐渡市SDGs未来都市計画」、「SDGsパートナー制度」など、佐渡市の持続可能な開発に係る取り組みを紹介し、その積み重ねが地域のブランディングにつながっていると述べました。菅範昭氏は、バイオマスなど地域資源の有効活用による地域経済の活性化を目指す兵庫県の「北摂里山地域循環共生圏」の取り組みと、それに基づいた21世紀の里山づくりについて共有しましました。サウミャ・シャルマ氏は、ナーグプル行政区(インド)で現在行っている社会福祉(成人女性の識字率向上プログラム、子どもの栄養失調撲滅計画など)、環境の持続可能性(政府機関における雨水利用、クリーンエネルギー発電など)、経済活性化(市場へのアクセス改善、ビワプール・チリー・プロジェクト、酪農農業など)の取り組みから得られた知見を共有しました。また、既存の課題に対する統合的な解決策を探るため、ニーズに基づいたCES活動を共同開発する地域レベルのプラットフォームを設立する計画について述べました。ラジブ・ショウ氏は、高知県土佐町にある限界集落での取り組みと、「土佐町SDGs推進会議」を含む、気候変動と持続可能な開発のための地方自治体および政府の行動を支援するための住民主体のアプローチを紹介しました。また、高齢化、水資源および森林管理といった課題への取り組みとして、「グリーンアクセラレーター」や「ソーシャルインパクトボンド」といった地域主導の活動を共有しました。ジョン・パジャム氏は、現在の世界的な目標を背景に、地方自治体に対する制度的支援やキャパシティ強化が依然として不足していることを論じました。そこで、複雑な持続可能性の課題に取り組むには、多様なアクターやステークホルダーが共同で学び合う仕組みづくりが必要であると述べました。また、現在進行中の大学と政府をつなぐEPIC(Educational Partnerships for Innovation in Communities)イニシアチブが、東南アジアにおけるいくつかの事例とともに共有されました。
最後に、モデレーターは、地域での取り組みがグローバルな目標に向けた進展につながること、意思決定機関および実施機関としての地方自治体の重要性を述べました。最後に、アジアの文脈における都市地域の活力を最大化し、世界的な持続可能性目標や気候変動対策を地域の開発政策に反映させるためには、各地で展開されているCESに基づく優良事例・戦略、革新的なアプローチを活用し、継続的に取り組んでいくことが不可欠であると強調しました。
主要メッセージ- 持続可能な開発と気候変動対策という世界的な目標と、地域のニーズや関心のバランスをとる相乗的なアプローチは、人類社会が直面する多様な社会的、経済的、環境的課題に取り組む上で極めて重要である。
- 地域主導の活動とマルチステークホルダー・パートナーシップは、都市地域をより持続可能で気候変動に対してレジリエントな道筋に導くために重要な役割を果たしている。ニーズに基づいた解決策を構築するための共同開発プラットフォームを確立することにより、ステークホルダーの参画とキャパシティ強化を促進することができる。
- CESの観点は、SDGsのローカライゼーション(地域化)、農村と都市間の資源循環の最適化、そして自然と人間との関係の調和に向けて、地方自治体および中央政府が実施する手段として活用できる。