この前のセッションでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が環境と持続可能性に及ぼす影響について議論を行う予定としていますが、では、COVID-19はアジアにおいてどのようなインパクトをもたらしたのでしょうか。
大気汚染は、現在でも年間約700万人の早期死亡を引き起こす深刻な問題です。インドなどの多くの途上国での大気汚染の状況は世界で最悪の状況であり、コロナウイルスに罹患し、複合作用により死亡する人は、膨大な数に達する可能性があると推定されます。
また、COVID-19は、拡大するサプライチェーンや観光産業などの地球規模のシステムがグローバルリスクに対して脆弱であることを改めて証明しました。アジアにおいては多くの人々がこれらに関連する産業に携わっており、影響が憂慮されます。一方、繊維産業では、グローバルなサプライチェーンを維持するために、低所得者層の労働者がリスクにさらされました。バングラデシュでは、国家的なロックダウン施策にもかかわらず、ほとんど選択の余地なく20万人もの労働者が工場での仕事に戻らざるを得なかった、との報告もあります。発展途上国に住む脆弱な人々がより大きな影響を受けることを考えると、この問題への対策をさらに強化していく必要があります。
このセッションでは、IGESのパートナー機関の代表を迎え、世界の成長センターといわれるアジアにおいて、COVID-19がどんなインパクトをもたらしたのか、COVID-19は社会経済的な不平等を増大させていると言われているところ、こうした傾向を如何に是正していけるのか、アジアにおいてどのように持続可能でレジリエントな社会を構築できるのか、について議論します。
IGES 理事長
武内 和彦
IGES 理事長
1974年東京大学理学部地理学科卒業、1976年同大学院農学系研究科修士課程修了。農学博士。東京大学アジア生物資源環境研究センター教授などを経て、1997年より2012年まで同大学院農学生命科学研究科教授、2008年より2016年6月まで国連大学副学長・上級副学長。2012年4月より東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)機構長、教授/特任教授。2017年7月より公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)理事長。
2019年4月より東京大学未来ビジョン研究センター特任教授。中央環境審議会会長、Sustainability Science誌(Springer)編集長、Distinguished Chair, Wangari Maathai Institute for Peace and Environmental Studies, University of Nairobi等を兼務。
専門は、緑地環境学、地域生態学、サステイナビリティ学。
国連環境計画アジア太平洋地域事務所(UNEP-ROAP) 所長
デチェン・ツェリン
国連環境計画アジア太平洋地域事務所(UNEP-ROAP) 所長
2017年3月より国連環境計画(UNEP)アジア太平洋地域事務所長。アジア太平洋地域事務所は、ケニア・ナイロビに本部を置くUNEPの地域事務所として、アジア太平洋地域の政府や、地方自治体、民間部門と協働。天然資源の効率的な利用を促進し、人と環境へのリスクを軽減する、よりクリーンで安全な政策と戦略の策定・実施を目指す。
国連で管理職・指導的ポジションを歴任。政府・国際機関で30年以上の経験を有する。後発開発途上国のキーネゴシエーターとして政府間交渉に積極的に関与し、後発開発途上国基金や後発開発途上国専門家グループの設立に貢献。また、複雑な開発プロジェクトをマネジメントした経験も有する。現職の前には国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局にて金融・技術・能力開発プログラムのディレクターとして、資金動員や技術開発・移転、気候行動強化に向けた能力開発などの国際協力を支援。また、国連環境計画(UNEP)アジア太平洋地域事務所の副所長を務めた。
チューリッヒの連邦工科大学において森林経済と政策に関する博士号取得。ジョージタウン大学修士、カリフォルニア大学バークレー校学士。
東南アジア諸国連合(ASEAN)
事務次長(社会文化共同体担当)
クン・ポアック
東南アジア諸国連合(ASEAN) 事務次長(社会文化共同体担当)
2018年より2021年まで東南アジア諸国連合(ASEAN) の社会文化共同体(ASCC)を担当する事務次長として命を受け、ASEAN事務局のASCC部門の舵を握り、ASCCブループリントの実行を牽引することによりASEAN事務局長を支えている。
現職任命以前はカンボジア王国政府の大臣評議会事務所において国務次官を務め、カンボジア王国総理大臣府の外務政策を担っていた。カンボジア王国大十字勲章を受章。
ポアック氏は、カンボジア戦略研究グループと呼ばれるカンボジアと国外の学者のネットワークとして2014年に始まったカンボジア戦略研究機関の共同設立者でもあり、実質的で派閥にとらわれない実証に基づいた政策案を策定することを目指している。また、英オックスフォード大学と米コーネル大学の客員研究員も経験している。
カンボジア王国政府奨学金を得てカンボジア工科大学で産業機械工学の学士号、オーストラリア連邦奨学金を得てオーストラリア国立大学で行政ディプロマ、そして公共政策の修士号、さらに英ウォーリック大学において政策科学と国際関係の博士号を取得している。外交政策、防衛政策、国内政治、国際貿易に関して多くの著作がある。妻はマリー・ソチータ。
国際金融論壇(IFF)共同事務局長 清華大学 気候変動・持続可能な開発研究所 非常勤教授 亜州基礎設施投資銀行(AIIB)及び新開発銀行 上級環境コンサルタント
ディンディン・タン
国際金融論壇(IFF)共同事務局長 清華大学 気候変動・持続可能な開発研究所 非常勤教授 亜州基礎設施投資銀行(AIIB)及び新開発銀行 上級環境コンサルタント
国際金融フォーラム(IFF)共同事務局長。これまでに、アジア開発銀行コンプライアンスレビューパネルの議長(2014~2019年)、中華人民共和国環境保護部の国際協力局長(2012~2014年)、日中友好環境保全センターのセンター長、また、中国・ASEAN環境協力センターのセンター長(2009~2012年)、平龍江省環境保護局の副局長(2008~2009年)などを歴任。現在、アジアインフラ投資銀行(AIIB)及び新開発銀行(NDB)の上級環境コンサルタント、また、清華大学気候変動・持続可能な開発研究所の非常勤教授を務める。
インド・エネルギー資源研究所(TERI)所長、気候変動に関する首相諮問機関メンバー
アジャイ・マスール
インド・エネルギー資源研究所(TERI)所長、気候変動に関する首相諮問機関メンバー
アジャイ・マスール ― インド・エネルギー資源研究所(TERI)所長、気候変動に関する首相諮問機関メンバー。
2006年から2016年2月までインド政府のエネルギー効率局局長を務め、家庭、オフィス、工場におけるエネルギー効率化の責任者として、電化製品のスターラベリング制度、省エネルギービル基準、およびエネルギー集約産業を対象とした省エネルギー達成認証制度(PAT)などの先進的取組を推進。
これまで、世銀の気候変動チームのヘッド、スズロン・エナジー・リミテッド社長、緑の気候基金暫定事務局の責任者を歴任。
気候変動分野にてインドを代表する交渉官の一人であり、2015年、パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)ではインド政府の報道官として活躍。また気候変動対策技術分野の世界的リーダーでもある。そのほか、産業界、金融界、シンクタンクのリーダーからなるエネルギートランジション委員会の共同議長として、企業や国家が気候フレンドリーなエネルギーの未来に移行できるよう助言を行ってきている。