- 持続可能な社会への移行は人類の生存にかかわる課題である。持続可能性の課題に対して先見性をもって統合的かつ包摂的に取り組み、協働を進めることが求められる。
- 都市や産業界、若者などの多様なステークホルダーを巻き込んだ地域・分野・世代を超えたパートナーシップを構築し、課題解決を図りながら変革への取り組みをともに進めることが重要である。
- 変革に向けては、社会的ダイナミクスの相互関連性を理解した上で、どのようなスピード感でどこから行動を起こすべきかについて具体的なロードマップを示すことが必要である。
本会合では、持続可能な社会への移行に向けた優先課題について、そしてそれらの課題への取り組みをどのように実践すべきかについて、国内外の第一線で活躍する有識者を招き、議論を深めました。
ハンス・ヨアヒム・シェルンフーバー氏による基調講演では、最新の研究から温暖化が一層進んでいることが明らかであるとして、ティッピングポイント(転換点)を超えて起こり得る地球システムにおけるティッピングエレメント(アマゾンの熱帯雨林消失、グリーンランドの氷床融解など)とそれらの相互作用に対して強い危機感が示されました。そして、パリ協定の1.5℃目標を達成するためには、気温のオーバーシュート管理が肝要であり、そのための具体的な行動が喫緊の課題であると指摘しました。なかでも、建築環境に関する取り組みが鍵になるとして、多様なステークホルダーとともに様々な分野との融合を図りながら持続可能な再生型建築を展開する「新欧州バウハウス(New European Bauhaus)」イニシアチブなどを紹介しました。
続くパネルディスカッションでは、武内和彦によるモデレーションのもと、アジア太平洋・都市・地方・産業界などの視点から、持続可能な社会への移行に向けた具体的な行動の方向性について意見交換を行いました。アルミダ・S・アリシャバナ氏は、持続可能性への移行が人類の生存にかかわる課題であると指摘し、気候変動に対して脆弱なアジア太平洋でのESCAPの取り組みにおいては、今回のISAPで焦点を当てる3つのダイナミクスに加えて、「先見性」も重視していることを強調しました。竹本和彦氏は、シェルンフーバー氏ならびにアリシャバナ氏のメッセージを受けて、持続可能な社会への移行に向けた優先課題を世界全体で共有し、協働して取り組む必要性を指摘しました。また、都市の可能性について取り上げ、日本の脱炭素先行地域など、都市の取り組みが活発化している点に言及するとともに、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第7次評価報告書(AR7)サイクルでは「気候変動と都市に関する特別報告書」の作成準備が進められている旨を紹介しました。都市工学が専門で秋田において大学教育に携わるモンテ・カセム氏は、都市と地方の公正かつ公平な関係構築の重要性を示唆しました。さらに、産業界や若者も参画する地域・分野・世代を超えたパートナーシップを構築し、変革の成功事例を共有するとともにクリエイティブな取り組みを試みながら、恒久的な解決策をともに考えていくことを提案しました。三宅香氏は、産業界、そして社会を脱炭素へ変革するには、ビジネスと政策の関係にとどまらず、多くの要素やアクターが相互に影響を及ぼす社会的ダイナミクスを理解することが重要であると指摘しました。その上で、どのようなスピード感でどこから行動を起こすべきかについて、具体的なロードマップを示していく必要性を強調しました。
ISAP2023 ポスターセッション
今年のISAPでは、メイン会場であるパシフィコ横浜5階のエレベーター前のスペースで、ポスターセッションを実施します。ポスターセッションとは、研究員がそれぞれの研究や活動を紹介するポスターを貼り出し、関心のある方・お立ち寄りいただいた方にその内容を直接ご説明する発表形式で、国際会議や学会などでは一般的な発表方法です。
IGESではISAPの会合で取り上げられているトピック以外にも、様々な研究や活動が行われています。そうした多様なプロジェクトについて、研究員と直接対話していただけます。研究員たちにとっても、質問を受けることによる新たな気づきや、同じような研究をしている方との繋がりなど、得るものが多いのがポスターセッションです。会場にお越しの際には、ぜひポスターの発表者に気軽に声をおかけください。ステージからの発表を聞くセミナーとはまた違った、ポスターセッションならではの会話のキャッチボールをお楽しみください。
さらに、今回はスペシャル企画として、生物や科学に興味を持つ中学生・高校生もポスターセッションに発表者として参加してくれます。IGESの研究員と肩を並べて自分の研究を発表する、若き研究者の卵にもご注目ください。
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