- 環境課題の解決にあたっては、社会経済課題との統合が不可欠であり、社会の変革が求められる。変革へのダイナミクスはウェルビーイングの向上につながり、企業経営や次期環境基本計画においても重要課題となっている。
- 統合的な解決策をいかに実施するかが課題である。実施の阻害要因分析や主体の意識・認識向上、科学的データに基づいた適切な優先順位付けをステークホルダーとともに考えていくことが重要であり、トレードオフの克服にもつながる。
- 社会をより良い方向に変革する基盤作りを社会全体で科学的に進めていく必要がある。
全体会合1での議論を受けて、変革への3つのダイナミクス(統合・包摂・ローカライゼーション)を重視したIGESの研究活動を概観し、持続可能な社会への移行に向けた具体的なアプローチや研究課題について議論を行いました。
冒頭、モデレーターを務めた高橋康夫が、IGESの各研究ユニットが協働して取り組む共通の重点分野を概説し、続いて各分野のリーダーが研究の方向性などを発表しました。SDGsの実施促進に関して、エリック・ザスマンは、変革へのダイナミクスに係るフレーミングを説明した上で、東南アジア諸国連合(ASEAN)での気候変動と大気汚染の統合的解決を図る取り組みや、八戸圏域などでの気候変動対策と健康のシナジーに関するプロジェクトを紹介し、ローカルな知見の蓄積・共有が変革につながる可能性を示唆しました。気候変動分野に関して、田村堅太郎は、日本の二酸化炭素排出削減目標の野心度引き上げと豊かな社会の両立を目指す「IGES 1.5℃ロードマップ」について詳述したほか、アジア各国の政策において緩和と適応の統合を図る取り組み、そして適応に関する情報共有を行う国際プラットフォームに言及し、社会変革を企図した研究の実践を紹介しました。生物多様性分野について、アンドレ・マダーは、土地利用変化・外来種・乱獲・汚染・気候変動などの多様な要素が複雑に絡み合っているとして、国際・国・ローカルの各レベルで統合的な研究を実施していると述べました。循環経済分野に関して、堀田康彦は、プラスチック汚染に関する国際条約の策定に関心が集まっているとして、プラスチックが様々な分野に関連することから、統合的な取り組みにつながる可能性を指摘しました。国際的な合意を地域、各国、自治体レベルに落とし込むとともに、各レベルの課題を国際的な目標設定に反映していく研究活動を展開しており、ベトナム・ダナン市での廃棄物管理プロジェクトと、国内諸都市を対象とした1.5℃ライフスタイルプロジェクトを紹介しました。
以上の発表を受けて、高村ゆかり氏は、変革へのダイナミクスはウェルビーイングの向上につながるものであり、企業経営や次期環境基本計画においても重要課題となっている旨を強調しました。そして、統合的な解決策の実施においては、政策立案プロセスのあり方ならびに政策評価が重要になること、また、シナジーのみならずトレードオフもあり得ることを指摘しました。各リーダーからは、実施の阻害要因を分析することや主体の意識・認識向上、科学的データに基づいた適切な優先順位付けをステークホルダーとともに考えていくことが重要であるといった意見が示されました。高村氏は、社会をより良い方向に変革する基盤作りを社会全体で科学的に進めていく必要があると総括するとともに、IGESに対して、科学に基づく政策提言を通じて変革を先導するチェンジ・エージェントとしての役割に期待したいと述べました。
ISAP2023 ポスターセッション
今年のISAPでは、メイン会場であるパシフィコ横浜5階のエレベーター前のスペースで、ポスターセッションを実施します。ポスターセッションとは、研究員がそれぞれの研究や活動を紹介するポスターを貼り出し、関心のある方・お立ち寄りいただいた方にその内容を直接ご説明する発表形式で、国際会議や学会などでは一般的な発表方法です。
IGESではISAPの会合で取り上げられているトピック以外にも、様々な研究や活動が行われています。そうした多様なプロジェクトについて、研究員と直接対話していただけます。研究員たちにとっても、質問を受けることによる新たな気づきや、同じような研究をしている方との繋がりなど、得るものが多いのがポスターセッションです。会場にお越しの際には、ぜひポスターの発表者に気軽に声をおかけください。ステージからの発表を聞くセミナーとはまた違った、ポスターセッションならではの会話のキャッチボールをお楽しみください。
さらに、今回はスペシャル企画として、生物や科学に興味を持つ中学生・高校生もポスターセッションに発表者として参加してくれます。IGESの研究員と肩を並べて自分の研究を発表する、若き研究者の卵にもご注目ください。
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