ISAP2025 全体テーマ

変動する世界の中で公正な移行が拓く持続可能な未来とは

2024年9月の国連未来サミットにおいて、持続可能な社会の実現に向けた取り組みへの確固たる決意を示した成果文書「未来のための協定」が採択されました。これは、世界のリーダーたちが地球のトリプル・クライシス(三重の危機)への対応の緊急性を認識していることを示すものです。しかし、前回の持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)でも議論されたように、トリプル・クライシス―気候変動、生物多様性の損失、汚染―への取り組みは、残念ながら遅々として進んでいないのが現状です。

実際に、パリ協定、昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)、持続可能な開発のための2030アジェンダといった世界目標への進捗にも遅れが生じています。例えば、2025年2月が提出期限であった2035年までの温室効果ガス排出削減目標である国が決定する貢献(NDC)を3月までに国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局に提出した締約国は19カ国にとどまっています。また、2024年10月~11月に行われた生物多様性条約(CBD)第16回締約国会議(COP16)は、会期中にすべての決定の採択に至らず、2025年2月に再開会合が開催されています。2024年11月~12月に行われたプラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第5回政府間交渉委員会(INC5)は合意に至らず、交渉継続となっています。こうした間にも、中東やウクライナでの戦争に終わりは見えず、また環境政策の発展に関し第2次トランプ政権の協力が期待できないなど、多国間主義は岐路に立たされています。安全で公正な地球システムバウンダリーの範囲内で人々のウェルビーングを高められる社会の実現が危ぶまれているといっても過言ではありません。

難題が山積する中、一方で、私たちの知識やツールを活用することで取り組みの軌道修正を図ることは可能であり、持続可能な社会を形作るという希望はまだ残されています。例えば、相互関係(ネクサス)を有する持続可能性の諸課題に対して、縦割りの対応から脱却し、相乗的な取り組み(シナジー)を進めることで大きな成果を得ることができるという知見が多く示されています。これらは、持続可能な開発目標(SDGs)間の「シナジー」を活用し、「トレードオフ」を管理することで、長期的にも短期的にも効率的に目標に近づける可能性を示しています。IGESでは、特に気候変動とSDGのシナジーについて研究したいわゆる国連グローバルシナジーレポートに貢献し、そのアジア太平洋版の制作にパートナー機関と共に着手したところです。

また、持続可能な社会への道筋を検討する研究では、人々の参加を促すとともに多様な協力関係を構築して環境・社会の持続可能性を実現する、誰一人取り残さない「公正な移行」の重要性が強調されています。世界目標への取り組みを加速させ、トリプル・クライシスに効果的に対処するためには、こうした研究成果や知見を幅広く共有し、実践を共に進めることが必要です。これらの経験は、2027年の次回国連SDGサミットを機に本格化する2030年以降の国際アジェンダに関する議論にも反映されていくと考えられます。

第17回となる今回のISAPでは、持続可能な社会の実現に向けたキーワードとして注目される「シナジー強化」と「公正な移行」に焦点を当てます。世界中の専門家、そして国際機関、政府、企業、NGOの関係者等とともに、シナジーをいかに強化し、そして持続可能な社会への移行を公正な形で進めることができるかについて、アジア太平洋地域の視点をふまえて議論を深め、実践的なアイデアや知見の共有を図ります。