- 2025年7月29日
- 13:20 - 14:20
- 503 + オンライン
- 同時通訳あり
レジリエントでネット・ゼロなASEANに向けた公正で包摂的な移行
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要約
本セッションでは、ASEAN地域における気候政策と社会的課題を統合するための戦略について、多角的な議論を行いました。IGESが提唱する「マクロフレーム」は、緩和策・適応策・持続可能な開発の相乗的な実施を支える7つの原則と行動から構成されており、シナジーや科学に加えて、ジェンダー平等を含む社会包摂を中心に据えた政策設計の指針となるものです。この枠組みが、ASEAN各国が策定する長期戦略(LTS)、国が決定する貢献(NDC)、国別適応計画(NAP)、そして現在策定中のASEAN気候変動戦略行動計画2025-2030(ACCSAP)などに反映されることで、気候政策の主流化と制度的な整合性の向上が期待されています。
セッションでは、3名の専門家がそれぞれの分野から、公正で包摂的な移行を実現するための条件を提示しました。ラチャダ・ジャヤグプタ氏は、政治、安全保障、経済、社会、文化といった柱から構成されるASEAN共同体においては、ジェンダー主流化と社会的弱者の権利保護が重要となる、と述べました。どの主体のネット・ゼロでレジリエントな移行を取り扱うかに注意を払う必要がある点を指摘しつつ、計画策定の開始段階からの女性や若者の意思決定への参加、低所得者、障がい者、子ども、少数民族・コミュニティ、移民の権利保障などを通じて、気候政策を社会正義の文脈で捉える必要性を訴えました。気候政策は単なる環境政策ではなく、包摂的な社会変革の手段として位置づけるべきであると改めて強調しました。アンビヤ・アブドラ氏は、2022年に公表された「ASEANジェンダーエネルギーレポート」を皮切りに、エネルギー部門において包摂的な移行に関する検討が進められてきた経緯を示しました。そして、公正で包摂的なエネルギー移行の定義や対象範囲の特定が重要である点を強調しました。さらに、再生可能エネルギー部門の女性や石炭採掘部門の先住民の人数など、詳細なデータ管理に関する能力構築を課題として提示しました。また、ACCSAPの気候行動や包摂性を「ASEANエネルギー協力行動計画」のプログラムと整合させることで、ASEAN地域のエネルギー転換の実効性が高まると述べました。増井利彦氏は、タイやインドネシアなどのASEAN諸国におけるアジア太平洋統合評価モデル(AIM)を用いた科学的な政策設計の取り組みを紹介しつつ、経済発展と脱炭素の両立に向けた長期シナリオの有効性を説明しました。加えて、モデル開発者と政策担当者とのコミュニケーションの重要性や研修プログラムの有効性を強調しました。また、脱炭素技術だけでなく、女性参加などの社会変容をどのようにモデル研究に反映させるかが今後の課題である点も指摘しました。
本セッションでの議論を通じて、ASEANにおける公正で包摂的な移行を実現するためには、社会的弱者の視点を政策に組み込み、制度的な整合性と科学的根拠を両立させることが不可欠であるという認識を共有しました。
サマリ―作成者: 有野 洋輔(ARINO Yosuke)
パネル討論

有野 洋輔
IGES 戦略マネージメントオフィス シニアリサーチマネージャー / レンズ・ファシリテーター
ASEAN女性と子どもの権利保護促進委員会(ACWC)タイ代表 / チュラロンコン大学アジア研究所 アジア移民研究センター ディレクター

ラチャダ・ジャヤグプタ
ASEAN女性と子どもの権利保護促進委員会(ACWC)タイ代表 / チュラロンコン大学アジア研究所 アジア移民研究センター ディレクター
Dr. Jayagupta serves as Thailand’s Representative to the ASEAN Commission on the Promotion and Protection of the Rights of Women and Children (ACWC) and is the Director of the Asian Research Center for Migration at Chulalongkorn University. A dedicated advocate and practitioner with over 25 years of experience, she is deeply committed to women's rights and gender justice. Her work focuses on women’s empowerment and the mainstreaming of Gender Equality and Social Inclusion (GESI), particularly in the context of climate action and development policy. She is a strong voice in promoting women’s leadership and decision-making, addressing human trafficking, and protecting populations affected by forced migration and labor exploitation. Her influence extends through her advisory role to Thailand’s Minister of Justice and as member of the National Sub-Committee on Anti-Human Trafficking, where she actively collaborating with diverse stakeholders to drive inclusive and equitable development outcomes across the ASEAN region.

アンビヤ・アブドラ
ASEANエネルギーセンター エネルギーモデリングと政策企画課 シニア研究員

増井 利彦
国立環境研究所 社会システム領域 領域長