持続可能なアジア太平洋に関する
国際フォーラム
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ISAP2011 Interactive Sessions / In-depth Dialogue upon New Asia-Pacific Perspectives towards Rio+20 / Implications of the East Japan Disasters

経済のグリーン化は地球規模での持続可能な開発や貧困根絶に向けて避けて通れない課題であり、2012年に開催されるリオ+20ではこれがひとつのテーマとして議論される予定です。また、津波や原発事故など未曾有の災害に直面している日本においては、より持続可能で対応力のある社会を構築することが急速に求められています。

今回は、スリランカにおけるサルボダヤ・シュラマダーナ運動の事務局長として、コミュニティレベルでの社会経済開発活動に長く携わり、また2004年の津波からの復興プログラムを率先して率いてきたビンヤ・アリヤラトネ博士に、グリーン経済や日本の震災復興計画に対するご意見を伺いました。

ビンヤ・アリヤラトネ博士
サルボダヤシュラマダーナ運動
事務局長
サルボダヤ・シュラマダーナ運動とは

---サルボダヤ運動はとても有名ですが、その目標や価値観、開発モデルについて改めてお教え頂けますか。

アリヤラトネ博士:
サルボダヤ運動はスリランカにおける最大規模の市民組織で、50年以上にわたり数千の村々で社会経済開発を実践してきました。現在、これは市民参加型開発のひとつの成功事例として国際的に認識されています。

私たちの基本的な考えは、まず自己の覚醒を行うことが必要であり、その後に家族や社会、国家を啓発するために個人が所有する労働力や知恵、アイディアを提供することが重要であるということです。“発展”とは物質的な欲求のみだけでなく、精神的、文化的な成熟という視点からも捉えられる必要があり、そのためには教育や保健衛生、環境保全などに取り組むことが重要です。このような視点から、私たちは社会の多様な人々が活動に積極的に参加できる基盤を作り、マイクロ・ファイナンスや衛生改善、法律学習などを通じて人々やコミュニティに自立を促してきました。

急速に変化する社会経済状況に応じて、現在サルボダヤ運動は、新たな開発アプローチを模索しています。50年間にわたる経験の蓄積は、私たちにガバナンスというものの重要性を教えてくれました。人々は、資源の不足が本質的な原因で貧しいのではなく、適切なガバナンスが欠落しているために貧しいのです。このような考えに基づき、私たちの焦点は直接的に開発にかかわる実践的な活動から、教育や訓練、情報共有などを通じた社会の自立促進へと移りつつあります。


---サルボダヤにおいて最も大きな挑戦は何でしたか。またこれまでに政治的腐敗などはありましたか。

アリヤラトネ博士:
コミュニティの自立は、現在の政党政治構造を脅かす可能性があることから、既存の国家システムそのものが、ひとつの大きな挑戦でした。事実、サルボダヤ運動の初期段階においては、二度ほど政治的な圧力を受けたことがあります。往々にしてスリランカでは、市民組織が独立的に活動することは政治的に好まれない傾向があります。また、草の根活動の有効性も正しく認識されてきませんでしたが、これは近年改善されつつあり、いくつかのサルボダヤ運動の活動は国家の村落開発政策に取り入れられています。

政治的腐敗は確かに存在し、内戦中に非常に悪化しました。また近年では国際的な資金がスリランカに流入し、それが政治的な支援を受けた団体へと流れる傾向が見られます。私たちは不適切なガバナンスという大きな課題に国家として直面していると言えるでしょう。


--- それぞれのコミュニティにはそれぞれの生業に基づく独自のガバナンス・システムがありますが、サルボダヤ運動はこれをどのように取り入れているのでしょうか。また、サルボダヤ運動の哲学は異なる文化や社会経済において、どのように応用できるでしょうか。

アリヤラトネ博士:
すべてのコミュニティには農家グループや水管理グループなどの非公式的なシステムがありますが、これらは他のシステムに改変されるのではなく、それぞれの独自の要望に基づいて強化されるべきです。サルボダヤ運動は、原則的に自分たちから村々に近づくということはなく、村々からの要望に応えるようにして協働します。私たちは、それぞれのコミュニティがそれぞれの開発経路を追及するための組織形成やシステム構築を支援しているのです。

文化や民族の交流は、相互協力のための正のエネルギーを生み出すことから、開発には、経済レベルや社会的状況に関係なく、様々なコミュニティ・グループが協働できる適切な機会が必要です。この意味で、私たちの自己覚醒と他者への貢献という考えは、他国へも等しく応用できると思います。


持続可能な開発とグリーン経済に向けて

--- 先進国は大量消費型のライフスタイルを見直し、より持続可能な開発モデルを目指す必要があると思いますが、理想的な開発経路とはどのようなものだと思いますか。


アリヤラトネ博士:
まず個人、特に資源を多く消費する人々は、それぞれの行動を変革することが必要です。グリーン経済は仏教の考えである中庸というものを取り入れるべきです。そこでは、貧困も過度の豪奢も許されず、幸せで快適な生活が優先されます。

また、利益最大化を求める経済は変革される必要があり、基本的人間ニーズを満たすことに注力したものにすべきです。現在の経済システムは、国内においても所得格差や死亡率の差異などの開発格差を生み出します。例えばスリランカでは、ひとりあたり所得は中進国レベルまで上昇しましたが、その分だけ所得格差も増大しました。現在、西側地域が国家所得の60%を占める一方で、他の地域では二倍の死亡率を記録しています。このような格差は、近年の国際的な株式市場によりさらに悪化し、より困窮している人々をむしろ苦しめています。

このような反省に立ち、代替的な開発モデルは、より少ない消費や行動変革、再生可能資源の利用などを促すとともに、現在の経済システムで無視されがちな女性や高齢者などのグループを取り入れる必要があるでしょう。


震災後の日本における持続可能な開発戦略

--- 被災者を支援するとともに、より持続可能で対応力のあるように被災地域を復興させるため、インド洋津波という震災復興に取り組んだ経験から、日本へのアドバイスをお願いします。

アリヤラトネ博士:
私たちの経験から言えることは、震災後には人的側面が最も重要な課題だということです。初期段階においては生命を救うとともに、物質的な充足を確保するために食糧や水などの必需品を提供することに注力すべきです。その後においては、被災者の精神的状態を考慮に入れながら、希望を与えることが重要です。このとき、すべての人々はそれぞれ特異な経験をしていますから、全く同じようなアプローチをとることはできません。まず初めにすべきことは、何も言わずに被災者の声に耳を傾け、気持ちを共有することです。そして、被災者の言葉やこちらが集めた情報に基づき、家族や親戚に関する情報や帰宅スケジュールなどを伝えていくことが、次の行動として重要です。

このような精神的ケアとともに、集団活動を組織することや対応力のある社会を構築することも被災者に希望を与える糧となります。たとえ被災者がほとんどすべてのものを失くしていたとしても、人間としての尊厳は保持しています。重要なことは、無料で食糧や家屋を配給することではなく、自分たちの家を人々との協働で建築させるなど仕事を与えることであり、その活動に対し将来の生計の基盤となる報酬を支払うことです。また、私たちは特定の災害に対するコミュニティの脆弱性を自分たち自身で認識させるとともに、災害時の行動や各個人の役割を明確にさせた経験がありますが、リスク軽減は対応力のあるコミュニティを構築する上で極めて重要です。このように災害は、新たなスタートの機会ともなり得るものですから、再生可能エネルギーや優れたガバナンス・システムを取り入れた全く新しいアプローチから環境に優しいコミュニティを創ることもできると思います。


---地方公共団体職員や市民社会がこのような災害に対応するためのアドバイスはありますか。

私は皮肉にも2011年の2月に東京都庁職員と災害経験からの教訓を共有し、主要な災害に対してどのように備えるべきかを議論していました。日本ではそれぞれの市町村がとても優れた対応策を準備していると感じましたが、一方でそれぞれのコミュニティが地方公共団体から独立してどのような準備をしているか知りません。それぞれのコミュニティがそれぞれ自身で災害への備えを行い、地方公共団体とのパートナーシップを確立しておくことが重要だと思います。


アジア太平洋における今後10~20年での主要な課題

--- アジア太平洋における持続可能な開発について、今後10~20年での主要な課題は何だと思いますか。またIGESのような国際的な研究機関にどのような役割を期待しますか。


アリヤラトネ博士:
食糧、水、そしてエネルギーの保障が重要ですが、これは現在の経済システムやガバナンスに由来する課題です。私たちは今、新たなメカニズムを研究するとともに、良い事例を普及させる必要があります。IGESのような機関は、実用的な研究を行うものとして常に最前線にいますから、開発や環境に係る課題に対し、科学的で、文化的に適切であり、かつ実現可能な解決策を提供するために、応用研究をさらに進めるべきだと思います。

また、情報技術はコミュニティ間の知識の拡大や、製品交換を促進するシステム作りに大きな可能性を秘めており、横断的な関係の構築に貢献するものだと思います。スリランカでは、3,000のコミュニティがネットの世界で繋がり、それぞれの特産物を直接交換できるようなシステムの構築が期待されています。


--- 実践的で示唆に富むアドバイス、また私たちを勇気づけるお言葉どうもありがとうございました。自立したコミュニティに基づく持続可能で対応力のある社会を構築する上で、サルボダヤ・シュラマダーナ運動の有用性や汎用性を再確認することができました。今、日本では、この危機を持続可能な開発へと向けて進むための好機とすることが求められています。IGESはこれに貢献するよう、実用的で課題解決型の研究をさらに進めていきます。

進行役: 堀田康彦(IGES)
インタビュアー: 蒲谷景、ビム・ナス・アチャリャ(IGES)


ISAP 2011 インタラクティブ・セッションについて

2011年7月に開催された第3回持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2011)において、来日中のゲストスピーカーの中からSurendra Sherestha, Vinya Ariyaratne, Atiq Rahman, Klaus Toepferの4名に公開インタビューを行いました。このセッションは、参加型形式で進められ、IGES研究員によるインタビュー・セッションに続いて一般聴衆からの質疑応答をつのり、闊達な議論が交わされました。
 
 

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