持続可能なアジア太平洋に関する
国際フォーラム
  1. IGES Home
  2. ISAP Home
ISAP2011 Interactive Sessions / In-depth Dialogue upon New Asia-Pacific Perspectives towards Rio+20 / Implications of the East Japan Disasters

アティク・ラーマン博士はバングラデシュ高等研究センター(BCAS)のエグゼクティブ・ディレクターであり、様々な分野、レベルにおけるコミュニティベース・アプローチに従事してきた。インタビューを通じてラーマン博士は、バングラデシュ高等研究センター(BCAS)によるコミュニティベース・アプローチが成功している背景のほか、先進国を含む各国における同アプローチの開発の重要性及び関連性について語った。


アティク・ラーマン博士
バングラデシュ高等研究センター(BCAS)
エグゼクティブ・ディレクター
---はじめに、現在、ラーマン博士が代表を務めておられるBCAS、そしてその研究を通じて推進を目指している基本的な価値観とアプローチについて会場の皆さまにご紹介願います。

ラーマン博士:
私は、バングラデシュ高等研究センター(BCAS)において技術部門の長を務めています。BCASの業務は様々なレベルで展開されており、コミュニティ・ローカルレベルの計画立案、国際機関、世界規模のシステムに関連することなど多岐にわたります。BCASのような独立した研究機関に所属する一方で、私は政府の各種委員会のメンバーでもありますので、ここで話す内容は、その双方の視点を備えたものです。25年前、私はオックスフォード大学で教鞭をとっていましたが、BCASでの研究に携わるためにバングラデシュに帰国しました。科学と結びつけることで政策プロセスを改善すべきであり、そのために取り組むべきことが母国には山積していると考えたからです。私たちは、政策、科学、そして人を関連させたモデルを構築しました。環境問題の多くが科学的根拠を持つものであるため、ほとんどの先進工業国では、科学と政策が対話する場を持っています。同様のことが気候変動に関する取り組みにおいても求められています。しかし一部の政策立案者は、石油ロビイストや産業界の代表などに影響されて、政策を誤った方向に進めてしまいます。長年にわたって精力的に研究を進める中で、私たちは科学-政策モデルを構築し、それを科学-政策-人モデルに高めてきました。環境と開発は密接に関係しています。その後、このモデルにはインフラ、食糧、農村部など様々なセクター(部門)が含まれていることに気が付きました。そこで、私たちは今、気候変動が開発に与える影響について議論を重ねています。持続可能な開発に関する私たちの概念を構成する要素は、環境と開発、貧困削減、優れたガバナンス、及び経済成長であり、他の分野横断的要素が相互に作用しています。


---只今の説明から、概してバングラデシュ、特にBCASがコミュニティベースの開発を推進し、その結果、人々がバングラデシュをコミュニティベース・アプローチに基づく国と見るようになっていることが明らかになりました。こうした取り組みが可能であった要因は何でしょうか。そしてこのすばらしい成功例から、他の国々は何を学ぶことができるでしょうか。

ラーマン博士:
私は地球工学の研究者であり、同時にコミュニティベースの適応に関する政策の専門家でもあります。バングラデシュでは、従来からローカルレベルのマネジメントが普及していましたが、その理由には文化的背景のほか、政府が十分に機能していないことが挙げられます。「民主主義は選ばれた者の民主主義」であり、「豊かさは選ばれた者の豊かさ」です。では、その他の人々にまで広めるにはどうしたらよいでしょうか。バングラデシュは世界で最も災害に脆弱な国の一つです。私たちは、コミュニティが自らの生活の先頭に立ち、科学者が適応方法を教えてくれるまで待つという姿勢をやめるのが最善の方法であると考えました。コミュニティベース・アプローチを用い、地元の問題や伝統的な知識を理解することで、私たちは本質的に長期的な問題を解決することができるのです。開発指向のコミュニティは開発を目指しますが、その成果には限界があります。これは、コミュニティが下す決定の内容によってベースラインが変わるためです。こうした開発指向のコミュニティは、気候変動問題に関わるコミュニティと協議を行うことで課題を明確に理解し、コミュニティベースの適応に関する行動研究(ARCAB)のケースのように、素晴らしい成果を上げることができるのです。国際的なNGOが連携し、ARCABを設計したBCASに協力することを決定しています。私たちは、参加型モニタリング・評価と呼ばれる方法論を確立しました。この方法論において人々は、参加型アプローチで特定される指標を用いて関与します。このプロセスの科学に関する分野については、ストックホルム環境研究所(SEI)、オックスフォード大学、ハーバード大学などから協力を得ています。私たちは、コミュニティベースの適応に関する世界規模の会議を毎年開催しており、国際社会から注目を集めています。


--- 以上の説明から、コミュニティベース・アプローチが、途上国のように、多くの問題の背景にガバナンス問題がある場合に効果的であることが理解されました。では、こうしたアプローチは先進国にも適用可能とお考えでしょうか。その場合、どのような形で適用されるでしょうか。

ラーマン博士:
先進国であろうと途上国であろうとコミュニティに変わりはありません。私は双方のコミュニティに関わってきました。日本は今や変わりました。私が今回滞在した3日間の経験から、今回の震災が日本人の魂を揺さぶり、そして人々はインフラが問題を解決するのではなく、コミュニティによる何らかの関与が必要であることを認識したと感じました。今、人々の尊厳や社会的統合(あらゆる年齢、社会・経済的グループのすべての人々を含む)について語られています。私たちは長年、バングラデシュにおいてコミュニティ問題に携わってきました。その中でコミュニティの人々は、「非常時の代替メカニズム」(例えばサイクロンが去ってシェルターから戻ったときに活用できる動物など)を用意する必要があると主張しています。こうしたアプローチは、日本の現状に合わせて「形作る」必要があるでしょう。また、できることとできないことについて、その限界を理解しなければなりません。例えば、放射線量を数年の間に基準値以下に下げることはできませんが、避難施設、水、食糧、雇用などの適切な支援は提供されるべきです。そして、私たちは1,000年に一度の事象が必ずしも1,000年後にのみ繰り返されるわけではなく、可能性は低いかもしれませんが、来年にでも起こり得ることを忘れてはなりません。したがって政策決定者は、災害対策を講じる一方で、こうした可能性に常に留意する必要があります。


会場からの質問:

--- 気候変動に関する議論を国連安全保障理事会に持ち込み、介入を求めることに効果はあるでしょうか。


ラーマン博士:
安全保障理事会は、気候変動問題をめぐる状況を大きく変えることはできないと思われます。問題は安全保障理事会にあるのではなく、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のシステムの欠陥にあります。私は長年にわたってUNFCCCに関わってきましたが、このシステムには限界があります。数値目標を設定した京都議定書が合意された時、達成可能な最高の議定書であると言われました。しかしこれは、最小公分母を見つけることに成功したものの、各国政府はそれすら達成できないことを示す結果になりました。一部の途上国では、人口の多くが栄養失調の状態にあり、自らの食糧も確保できない中で気候変動の緩和についての協議が進められています。つまりこうした政府に問題があるのです。安全保障理事会には、戦争を止めたり追加的な資金を提供したりすることは可能かもしれませんが、気候変動問題に関しては十分な資金がシステムに投入されているため、理事会の介入があっても状況はさほど変わらないでしょう。


--- 気候変動問題の専門家のほとんどが環境分野の出身というお話でした。最近では、社会・政策の専門家によるこうしたプロセスへの参加が見られますが、各国政府によるこの問題へのアプローチは依然として単一分野型ですか、それとも多分野型ですか。

ラーマン博士:
現実には、アプローチは単一分野型でも多分野型でもなく、決定を左右するのは資金です。UNFCCCの交渉では何も決定されません。あらゆる決定は舞台裏である各国の環境省において行われます。しかし、環境省の職員は交渉のための訓練を受けているわけではありません。交渉には法律問題、外交問題などが絡んでおり、自国と環境の最善の利益を守ることは共通の利益を守ることを意味します。その他の問題として、気候変動が長期的な課題であるのに対し、政策立案者の在職期間が5年程度であるため、新たなガバナンスの方法が求められています。交渉を迅速に進めるには単一分野型のアプローチが有効ですが、交渉の一層の前進を目指すのであれば、多分野型のアプローチが望ましいと考えます。


---ARCABに関する見解に感銘を受けました。私は、同様のプロジェクトが様々な場所で進められていることを知っていますが、問題は、それぞれが孤立し、連携が図れていないことだと思います。

私たちは、これを花輪理論と呼んでいます。つまり個々のピースがつながっていないのです。NGOの場合、資金を使わなければならない期限があります。そのため、資金を動員し、不良プロジェクトに注ぎ込むはめになって終わる場合もあります。私は、資金を受ける側に対して敬意を払って責任を与え、プロジェクトへの参加を促すとともに、プロジェクトを実施する時間を明確に与え、それに対して責任を持たせるようにする必要があると考えます。評価は、最終段階ではなく、継続的に実施します。これが出来なければ、大抵の場合、こうした多くのプロジェクトは「相互騙し合いの世界」と表現されるものになります。この場合、調査研究結果は予測しやすいものとなり、コミュニティもまた、調査に対する回答方法を知っています。彼らは、質問される前から回答するようになります。



--- Rio+20とコミュニティベースの開発モデルはどのように関連するでしょうか。


ラーマン博士:
私は、環境と貧困に関する世界フォーラムのメンバーとして、1992年のリオサミットに非常に深く関わっていました。当時は非常に少人数であったグループが、今では1万人規模になっています。多くの人々が、気候変動、生物多様性の喪失、砂漠化など、各国が抱える問題の解決を支援し、貧困者と対話することを目指しています。Rio+10ではミレニアム開発目標が設定されました。そしてRio+20では、グリーン経済と制度的構造が主なテーマとなります。グリーン経済は、代替エネルギーや食糧システムなどが十分な状況で初めて可能となるものです。悲しいことに、世界の雇用市場が変わってしまい、途上国の優秀な人材が世界市場に流出しています。私たちは、こうした人材を、彼らを必要とする土地に取り戻さなければなりません。理想主義に立ち返らなければならないのです。人口増加をコントロールし、人口抑制・低炭素社会を実現するためには、地球に関するビジョンを持つ必要があります。若い世代には、地球上の誰もが食糧を得られるよう、これらの原因に立ち向かってもらわなければなりません。これは、食糧や水といった基本的ニーズに関する話です。地球上には、私たちが必要とする以上の食糧、医薬品、そして水があります。にもかかわらず世界の3分の1はなぜ飢餓に苦しんでいるのでしょうか。何かが間違っているのです。

--- 貴重なご意見をありがとうございました。IGESは、研究機関としてこうした経験に学び、過去を評価し、そして将来に向けたビジョンを描くことに努めたいと思います。

インタビュアーの考察

ラーマン氏博士の話は、コミュニティベース・アプローチに関する幅広い知識と経験に裏打ちされたものであり、自らのニーズを理解している住民の関与が重要であることを強調する内容であった。また、科学、政策そして人を結ぶ関連性、気候変動、貧困、開発などの異なるテーマ間の関連性を確立し、認識する必要があることが明らかにされた。さらに、気候変動政策や日本の震災からの復興など、今日の様々な課題に対して重要な見解が示された。

進行役: 片岡八束(IGES)
インタビュアー:プラバカール・シヴァプラム、大久保望 (IGES)


ISAP 2011 インタラクティブ・セッションについて

2011年7月に開催された第3回持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2011)において、来日中のゲストスピーカーの中からSurendra Sherestha, Vinya Ariyaratne, Atiq Rahman, Klaus Toepferの4名に公開インタビューを行いました。このセッションは、参加型形式で進められ、IGES研究員によるインタビュー・セッションに続いて一般聴衆からの質疑応答をつのり、闊達な議論が交わされました。
 

ページの先頭へ戻る