持続可能なアジア太平洋に関する
国際フォーラム
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ISAP2011 Interactive Sessions / In-depth Dialogue upon New Asia-Pacific Perspectives towards Rio+20 / Implications of the East Japan Disasters
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地球環境に関するガバナンスの改善は困難な課題であるが、その原因には、国連のシステムが複雑であること、さらに、環境ガバナンスの本質的な特性として、分野内及び他分野との間に相反する利益を持つ場合が多いことが挙げられる。このインタビューの目的は、この分野において非常に著名で経験豊富なクラウス・テプファー博士の貴重な意見を拝聴する中で、解決のための鍵を理解し、見出すことであった。インタビューでは、福島第一原子力発電所の事故について最初に取り上げ、日本のエネルギー政策に関して、ドイツにおける豊富な経験に基づく博士の見解を求めた。


Dr.Toepfer
クラウス・テプファー博士
持続性高等研究所(IASS)所長
福島原発事故が世界のエネルギー部門に
及ぼす影響


---福島原発事故後の日本における社会・政治的展開がもたらした影響、世界各地における反原発機運の高まり、さらには世界のエネルギー源構成における原子力の立場について、どのような意見をお持ちでしょうか。

テプファー博士:
多くの国は、今日に至るまで、原子力が発展のために重要なプロセスであると認識していました。しかし福島原発の事故は、原理力発電には相当大きなリスクがあることを如実に示し、原子力発電への依存が受入れ可能な選択肢か否かということを私たちが考える契機となりました。

エネルギー源を原子力から転換し、たとえ高コストでも代替エネルギーを開発する必要があります。しかし、「コスト」には何が含まれるか考えなければなりません。太陽光発電はそれほど高コストと言えるでしょうか。ある太陽光発電会社のCEOオフィスを訪ねたことがありますが、室内の壁に壊れたソーラーセルの写真が貼られていました。そのタイトルは「過去最悪の太陽光発電事故」でした。すなわち、太陽光発電施設が破壊された場合の影響は限定的ですが、原子力発電所の事故によるリスクは甚大です。これは、いかなるコストが現代の技術と関連するか否かについて、線引きをする難しさのほんの一例です。


---ロシアは25%を超える天然ガスをドイツに輸出しています。そのため、ドイツのエネルギー部門は、地域における地政学的リスクに対して脆弱であると言われています。 現在の主要な電力供給源である原子力発電をエネルギー源構成から排除した場合、ドイツはこうした地政学的懸念にどのように対処していきますか。また、予想される電力の供給不足にどのように取り組みますか。

テプファー博士:
地政学は非常に重要な側面です。ドイツがロシアの天然ガスに依存しているのと同様に、ロシアもドイツの市場に依存しています。ロシアのニーズに応えるため、ドイツ企業は、ロシアで技術協力を行っています。つまりロシアとドイツは相互に依存しているのです。私たちはこの状況が危険であるとは考えていません。経済的な相互作用は政治的協力関係の土台にもなっており、ロシアからの天然ガスの輸入は、そうした協力関係の一端に過ぎません。

そうは言っても、歴史的にドイツはエネルギーの輸入大国であり、エネルギー依存が抱える問題については認識しています。そのため、再生可能エネルギーの十分な開発と同時に、エネルギー源の多角化を図ることが極めて重要です。


国連システムとRio+20


---国連の現行のシステムについてどのようにお考えですか。長所・短所はどのような点であり、また短所については克服可能でしょうか。Rio+20では何を決定すべきでしょうか。

テプファー博士:
最初に、国連システムがいかに複雑であるかについて少し説明します。国連は独自の権利を持つ主体ではなく、加盟国に帰属する組織です。この点を忘れてはなりません。国連には2つの柱があります。第一の柱は、1国1票制という国連のシステムです。もう一方の柱は、世界銀行とIMFによるブレトン・ウッズ体制であり、1ドルが1票のシステムを持っています。明らかに、意思決定能力は1ドル1票システムが1国1票システムを上回る可能性があります。国連の複雑さを示すもう一つの例は安全保障理事会であり、ここでは常任理事国である5カ国があらゆる重要事項の議決に対して拒否権を持っています。常任理事国の選出には、第二次世界大戦の帰結といった歴史が大きく関わっています。

国連はこのように複雑なシステムと歴史的背景を持つ組織であり、いかなる国連改革、特に国連憲章の改正を伴うものは非常に困難です。例を挙げてみましょう。国連には、安保理事会、経済社会理事会(ECOSOC)、信託統治理事会 という3つの理事会があります(*1)。 信託統治理事会は、パラオの独立を最後に業務が終了しています。つまり、現在は全く業務がないのです。1992年にリオデジャネイロで地球環境サミットが開かれた際、私はドイツ代表団の議長でした。私たちは信託統治理事会を国際公共財の信託統治のための組織に変えていくという考えを支持していました。これは実に優れた考えでしたが、その実現には国連憲章の改正が必要であり、誰もそれを望まなかったのです。このように、いかなるものであっても国連改革の方向性に関してはきわめて極めて慎重な検討が必要です。

私たちは、国連ECOSOCの組織改編に取り組んでいます。国連持続可能な開発委員会(CSD)は、ECOSOCの下部組織です。ECOSOCとCSDにおける現在の問題についてお話しします。私がCSDの議長であった当時、難しい交渉や協議の後には報告書を作成していました。そして、ECOSOCの議長にこうした報告書を提出する必要がありました。しかしドイツの在ニューヨークの国連大使は、「報告書には何の政治的影響力もないのだから、わざわざ提出する必要はない」と言ったのです。ともかく私はニューヨーク国連本部のECOSOCに出向きました。大使の発言は事実でした。そこには大使はだれ誰一人おらず、協議は行われていなかったのです。つまり、報告書を提出しても、ほとんど何の意味もありませんでした。ECOSOCについては、環境を含む持続可能な開発分野における有効な柱となるべく改革を進める必要があります。

開発途上国が開発を優先しているのは明らかです。彼らは、先進諸国は自国の開発を終えた後に、途上国に再び戻ってきて、負担を強いていると主張しています。これに関しては、1972年にストックホルムで開かれた国連人間環境会議において、インドのインディラ・ガンジー元首相が行ったスピーチが非常に有名です。私たちは途上国に対して、開発プロセスの障害となることを、強く求めすぎてはなりません。

現在、途上国には多大な負担が課せられています。環境問題に含まれる廃棄物、土壌、水、大気、化学物質などの各分野を、様々な機関が多くの協定や条約に基づいて管理しています。こうした状況が途上国に深刻な問題を引き起こしています。途上国では専門家の数が不足しており、一つの分野について専門家は1~2名で、その能力も限られているため、複数の分野や協定を扱うことは不可能なのです。したがって、包括的な構造(umbrella structur)を持つことは、正にあるべき方向性なのかもしれません。

CSDとRio+20に環境分野以外の大臣も惹きつけることが重要です。例えば、他分野の大臣はCSDのテーマが、結局は環境問題であると思っているのでCSDには参加しません。財務大臣がCSDに参加しない理由は、常に新たな拠出を求められることを知っているからです。こうした状況を変える必要があります。環境の役割を強化することは非常に望ましいことですが、Rio+20が最終的に、やはり環境問題の会議であるという印象を与えることは避けなければなりません。

「Rio+20」という名称は、後ろ向きの印象を与えるので不適切です。むしろ、「Rio20+」といった名称のほうが、将来に光を当て、若い世代を引き付けるという意味で望ましいと思います。

(*1) 信託統治理事会については、国連ホームページ http://www.un.org/en/mainbodies/trusteeship/ > 参照。


---国連のシステムの中で、様々な環境問題にいかに対処すべきでしょうか。例えば、国連開発計画(UNDP)は資金が豊富であり、一方UNEPには強力な規範的要素があります。強化や融和のための何らかの調整をこうした組織間で行うことは可能でしょうか。

テプファー博士:
多くの人々、組織、研究機関が調整を求めています。しかし決定的な問題は、誰も調整されることを望んでいないことです。調整は多大な労力を伴うものであり、国連システムにおける実に深刻な問題となっています。



マルチステークホルダーの参加

--- 地球環境ファシリティ(GEF)は、UNEPよりもUNDPや世界銀行に重点を置いているようですが、その理由は何でしょうか。


テプファー博士:
GEFは、1992年のリオデジャネイロにおける地球環境サミットの成果の一つです。概して、途上国は資金源が保障された後にGEFのプロジェクト契約を締結します。GEF設立の背景にあった考えは、環境面の持続可能性が考慮されている場合には、プロジェクトに追加費用を提供するというものでした。私のUNEP事務局長時代は、UNEPは少なくともGEFとは同等のパートナー、あるいは実施機関でした。そして、この関係を変えるべきとする兆候はありませんでした。


インタビュアーによる考察

テプファー博士は、チェルノブイリ原発事故の後、ドイツにおける原子力産業に反対する立場をとった著名人の一人であり、原子力の利用に反対する博士の見解は、途上国にとって非常に重要な意味を持っている。博士は「アジアの途上国は増大するエネルギー需要を満たすために原子力発電を推進しているが、代替資源を開発することが長期的なエネルギーの安定確保にとってより賢明な選択である」と考えている。

テプファー博士の視点には、深遠で一貫した一つの理念である「包摂」という考え方が含まれているものと見られる。つまり、異なる視点や関心を持つ人々、省庁、研究機関、そして国のすべてを同じテーブルでの協議につかせることである。この概念は、困難な局面を打開し、環境ガバナンスを改善する上で非常に重要である。博士は、異なる関心を持つ主体、つまり途上国、環境省以外の省庁、若い世代などがRio+20に参加することの重要性を強調した。彼の理念はインタビューの中で語った次の言葉に表現されている。「私はECOSOCとかCSDといった略語が嫌いです。こうした略語はこの分野に精通した人向けであり、排他的だからです。現に、UNEP事務局長時代ナイロビの私のオフィスには、『ここからは、略語を使わない区域です』と表示していたほどです」。


進行役: 明日香壽川(IGES)
インタビュアー: ナンダクマール・ジャナルダナン、島岡未来子 (IGES)


ISAP 2011 インタラクティブ・セッションについて

2011年7月に開催された第3回持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2011)において、来日中のゲストスピーカーの中からSurendra Sherestha, Vinya Ariyaratne, Atiq Rahman, Klaus Toepferの4名に公開インタビューを行いました。このセッションは、参加型形式で進められ、IGES研究員によるインタビュー・セッションに続いて一般聴衆からの質疑応答をつのり、闊達な議論が交わされました。
 
 

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