持続可能なアジア太平洋に関する
国際フォーラム
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ISAP2011 Interactive Sessions / In-depth Dialogue upon New Asia-Pacific Perspectives towards Rio+20 / Implications of the East Japan Disasters

1992年のリオデジャネイロにおける国連環境開発会議(UNCED)から20年、そして2002年のヨハネスブルクにおける持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)から10年を迎える2012年6月、ブラジルでは、国連持続可能な開発会議(UNCSD:リオ+20)の開催が予定されています。この会議は、国家元首や政府首脳、政府代表などが参加する最高レベルのものとなることが予想されています。会議では、主要テーマである「持続可能な開発及び貧困削減の文脈におけるグリーン経済」および「持続可能な開発のための制度的枠組み(IFSD)」について議論が交わされる予定です。

今回は、国連持続可能な開発会議の準備のために設置された国連特別タスクフォース(ニューヨーク)のタスク・リーダーとして、会議の主要テーマの1つであるIFSDに携わるチームをリードしているスレンドラ・シュレスタ氏に、IFSDや日本の震災復興に対するご意見を伺いました。現職就任以前、シュレスタ氏は、国連環境計画(UNEP)の戦略的資源活用・特別イニシアティブのディレクターとして、多様な開発パートナーと協働しつつ、関連政策の発展に従事、また、UNEPアジア太平洋地域ディレクターおよび同機関代表、アジア工科大学院および国際総合山岳開発センターの上級職を歴任しました。

スレンドラ・シュレスタ氏
国連持続可能な開発会議(UNCSD: Rio+20)事務局IFSDチームリーダー
Rio+20に対する期待

---Rio20の成果として、どのようなシナリオを想定していますか。

シュレスタ氏:
主なシナリオとしては、1)「現状維持(status quo)」から、2)「漸進的(incremental)変化」、さらには3)「抜本的改革(fundamental)」の3種類を考えています。第一の「現状維持」は、起きてはいけないシナリオです。国連交渉の中心はニューヨークにあり、ここでは南北格差が現状打開の大きな障害となっています。CSD19や気候変動に関する現在進行中の交渉に見られるように、その溝は深く広いものです。私たちは、このシナリオが現実とならないように協働していかなければなりません。

第二のシナリオは、「漸進的変化」です。このシナリオが実現しても、持続可能な開発の達成に向けた21世紀のあらゆる課題に十分対応することは難しいでしょう。

望ましい成果は、第三のシナリオ「抜本的改革」です。多くの国連組織は、1950年代から60年代にかけて東西冷戦の産物として作られたものであり、国連システムの中の組織間連携が図られていません。このシナリオでは、こうした組織が、21世紀の課題に対応するために組織間の一貫性と調整能力を強化することが期待されます。さらに、時代遅れになった制度・機関を廃止し、持続可能な開発のあらゆる要素を実現するための権限を持つ、新しい強力な制度・機関を構築することもシナリオに含まれています。この実現のためには、特に市民社会の協働が必須となるでしょう。


IFSDとグリーン経済との関連性

---IFSDをどのように定義しますか。世界、地域、国レベルでIFSDはどのように影響しますか。アジアにおいて持続可能な開発を達成するためのIFSDの強化に向けたロードマップ/タイムラインをどのように設定すべきですか。

シュレスタ氏:
私たちを取り巻く政府、大学、および社会における制度の仕組みは、1700年代後半から1800年代に考案されたものです。当時の最重要目的は生産を増大すること、そして様々なセクターと縦割り組織を最大限に専門化することによる利益と金銭の確保でした。こうした状況が産業化による自然資源の大量搾取や廃棄物の増大を招いたのです。今日、私たちは、こうした現在のライフスタイルがもはや持続可能ではないことを認識しています。ですから、このようなガバナンス構造は、成長指向型から脱却し社会および環境活動を促進する、グリーン経済へと変化しなければなりません。従って、IFSDはグリーン経済を達成する手段であり、この点において、グリーン経済との関連性が考えられます。

アジアでは、5つの準地域がありますが、まだこれらの地域を統合する地域媒体がないため、ガバナンス構造が他地域に比べてより複雑です。また、アジア地域の多くの国は新興国でもあります。従って、アジア太平洋地域のガバナンス構造を早急に見直す必要があります。


国連システムの問題点および今後の課題への対応

--- IFSDを強化し、持続可能な開発に向けた事業を推進する上で、既存のガバナンス構造を変化させるのに必要な要因は何でしょうか。持続可能な開発に向けた国連の事業の一貫性を強化するための目的や目標について意見をお聞かせください。

シュレスタ氏:
あらゆるレベルにおけるリーダーシップ、正統性、そして効率性が、ガバナンス構造改革に求められています。193の加盟国から構成される国連は、唯一の正当な国際機関です。リーダーシップと効率性に関して改善の余地があるという見解も多くあります。これらの問題に対応していく改革が求められています。

さらに、今日のグローバル化された多極構造の世界では、G20諸国および専門機関は国連総会から離れた場所で十分に機能しています。G20諸国は世界人口の60%超、貿易の80%、および世界のGDPの85%を占める一大勢力を形成しています。国連はG20諸国と密接に協働していく必要があり、また、専門機関も改革に関する議論に参加することが大切です。


マルチステークホルダー(多様な利害関係者)による参加を強化させる鍵となる説明責任

--- マルチステークホルダーの参加は、持続可能な開発のための新たな政策、対策に対する最大限の支援を得る上で重要と考えられますが、そこには課題もあります。これまでの経験から、Rio+20に向けた建設的な議論を推進するための各国政府、市民社会組織(CSO)、さらにはビジネス部門に対するマルチステークホルダーの参加を促すための効果的な戦略とはどのようなものと考えられますか。


シュレスタ氏:
歴史を振り返ると、1972年と1992年のサミットでは、市民社会が重要な役割を果たしたこともあり、変革的な成果を生み出すことができました。現在、マルチステークホルダーの参加が重要であるという一般的な同意を得ている上、マルチステークホルダーによるRio+20に向けた協議を拒否している政府はありません。市民社会はどの有権者を代表するのか。代表制の選択プロセスはどうあるべきか。代表はどのように他の有権者に報告すべきか。私たちは、これらの質問に答え、市民社会の意思決定プロセスへの参加を促進させなければなりません。


日本の震災復興の経験からRio+20に向けたメッセージ

--- 日本で2011年3月11日以降に発生していることは、これまでの災害リスク軽減計画では重視されてこなかった激甚な事象(extreme events)です。日本人がRio+20に重要なメッセージを届けるにあたって、助言をいただけますか。


シュレスタ氏:
日本が回復力、伝統的知識、震災経験を基にした社会の再変革を遂げる道筋に関する教訓を示すことができるのであれば、それは大変有意義なものとなるでしょう。現在、私たちの国連総会が抱えている弱点は、経済成長、生活の質などの理念に関する共通の理解が欠如していることです。被災後の社会を変える方法に関する理念は、IFSDが成長中心型から人間指向構造へと変化することを後押しする、Rio+20に向けた非常に有用なケーススタディになると思われます。


アジア太平洋地域における今後10~20年間の主な課題

---アジア太平洋地域が今後10~20年の間に持続可能な開発の実現に関して直面する主な課題は何でしょうか。IGESのような国際的な研究機関がこうした課題に取り組む際に重点を置くべき事項について、助言をいただけますか。

人口動態と都市化の問題が重要度を増しており、都市化の進行を抑えることが可能か、そして欧州のように農村部に住むことの魅力を高める解決策を見出すことができるかについて研究が必要になっています。さらに、アジアは21世紀の成長の牽引力とも言われていることから、私たちは、中庸かつ持続可能な道筋を世界に示す機会に直面しています。成長は、経済成長だけでなく、貧困や衡平性などの社会と環境面の課題にも対処していかなければなりません。IGESが、伝統的知識やこうした経済発展のパラダイム・シフトのための英知に基づく研究やポリシー・ブリーフを発信していくことは大変有意義なことでしょう。

--- 非常に有益なアドバイスと激励のメッセージどうもありがとうございました。IFSDの歴史的・理念的意義を強調していただき、あらゆるレベルにおいてガバナンスに関する根本的な問題があり、私たちの社会の多くの部門(セクター)がそれに直面していることを再認識することができました。これらの問題は、成長の量的側面に偏重し、人が享受する福祉といった質的指標を軽視することに原因があります。さらに、私たちは、現在実施中および将来の研究に関して、多くの具体的なヒントを伺うことができました。これらには、あらゆるレベルにおけるマルチステークホルダーの参加の重要性、持続可能性や震災からの回復力を持つ社会の実現に向けて、被災後の変革事例として日本社会が歩みうる道筋などが含まれます。シュレスタ氏の助言にあるように、IGESにとっても大きな課題ではありますが、持続可能な開発のためのプロアクティブなガバナンス構築のための可能性とそれを実現させるための機会をさらに視野に入れた研究を進めていきたいと思います。

進行役: 大塚隆志(IGES)
インタビュアー: サイモン・ホイベルク・オルセン、宮澤郁穂(IGES)


ISAP 2011 インタラクティブ・セッションについて

2011年7月に開催された第3回持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2011)において、来日中のゲストスピーカーの中からSurendra Sherestha, Vinya Ariyaratne, Atiq Rahman, Klaus Toepferの4名に公開インタビューを行いました。このセッションは、参加型形式で進められ、IGES研究員によるインタビュー・セッションに続いて一般聴衆からの質疑応答をつのり、闊達な議論が交わされました。
 
 

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