- 誰一人取り残さない持続可能な未来を実現するためには、協調に基づくシナジーアプローチの推進が不可欠である。
- シナジー推進に向けては、ガバナンスや資金フロー、知識・データの分断化を打破することが求められる。
- シナジーを自分の身近なこととしてとらえることが大切である。その上で、気候変動や生物多様性の損失などのグローバルな環境課題への対応に応用することができる。
滝沢求環境副大臣は冒頭、今回のISAPのテーマでもある気候変動、生物多様性の損失、環境汚染という3つの地球的危機の解決に向けては、気候変動と持続可能な開発目標(SDGs)における課題解決のシナジーを高め、トレードオフを最小化していく必要があるという認識を示しました。そして、2023年4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合で日本が議長国を務め、同会合の成果文書でシナジーの活用にコミットすることが述べられたこと、さらに2024年3月の第6回国連環境総会でシナジー推進のための決議を日本が提案し採択されたことなど、シナジー推進における日本の積極的な関与について報告しました。また、2024年7月に開催された持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)の関連イベントにおいて、シナジー推進の重要性を日本から発信し、各国・関係機関との連携を再確認したことにも触れました。最後に、地球的危機の統合的解決とSDGsの達成に向けたシナジーの重要性を世界に訴え、世界をリードしていくという日本の役割を改めて強調するとともに、今回のISAPでの各テーマにおける具体的な議論の深化に期待したいと述べました。
橋本和也神奈川県副知事は最初に、IGESが連携事業などを通じて県の政策形成に貢献していることに謝意を表し、ひとつの例として県とIGESが共同作成した「かながわ脱炭素ビジョン2050」について言及しました。次に、今回のISAPのテーマに沿って県の主要な取り組みを紹介しました。気候変動については、国に先駆けて2050年脱炭素社会の実現を表明し、温室効果ガスの排出削減目標を引き上げたこと、そして神奈川県地球温暖化対策計画の全面改定を図ったことなどを述べました。生物多様性については、かながわ生物多様性計画に基づき、県内エリア毎の特性に応じた施策を進めるとともに県版レッドデータブックの更新を進めている旨紹介しました。環境汚染については、国の法令より厳しい規制を課す条例を制定し、環境リスク低減に取り組んでいること、そして循環型社会形成に関しては神奈川県循環型社会づくり計画の下で積極的な取り組みを推進していることを報告しました。最後に、引き続きIGESとの連携に期待を示すとともに、2027年に県で開催を予定している国際園芸博覧会について紹介し、自然・人・社会がともに持続するための最適解を描きたいとの希望を述べました。
武内和彦IGES理事長は、今回のISAPでは、気候変動、生物多様性の損失、環境汚染という地球のトリプル・クライシスを乗り越えるために、超学際的思考と分野横断的視点から包摂的に諸課題に取り組む統合的アプローチについて具体的な議論を深めていくと述べました。そして、統合的アプローチに関するIGESの主要な取り組みとして、気候変動とSDGsのシナジー推進に環境省とともに関与を深めている旨を紹介し、第6回国連環境総会の公式サイドイベントでシナジー決議の実施とシナジー行動の強化についてメッセージを発信したことに言及しました。また、理事長自らが参加する気候変動とSDGsのシナジーに関する専門家グループがHLPFにおいて第2次グローバルレポートを公表したことも報告しました。さらに、統合的アプローチをテーマに、その学術的解説と様々な実践例をまとめたIGESの近刊書籍についても紹介しました。最後に、去る5月に逝去された森嶌昭夫IGES初代理事長の功績に触れながら、森嶌元理事長が築いた礎の上で、科学的知見に基づく戦略研究の幅を広げ、社会変革を促す政策実践のパートナーとなる研究機関としてさらなる活動を展開していく旨強調しました。
国連による「気候変動とSDGsのシナジーに関する第2次グローバル・レポート」の公表を受け、本講演では、とりまとめを行った専門家グループの共同議長であるルイス・ゴメス・エチェベリ氏がレポートの概要を紹介しました。
ゴメス・エチェベリ氏は、2030アジェンダとパリ協定の目標達成に向けて気候変動対策とSDGsの相乗的な実施(シナジー)の重要性が主要な国際報告書で共有されている一方、その実践において各国は多くの課題に直面していると指摘しました。そして、IGES研究員も執筆に加わった4つのテーマ別報告書(知識・データ、政策、ファイナンス、都市)での知見を統合する形でまとめられた今回のレポートでは、シナジー推進への具体的な道筋が示されていると述べました。
レポートは、気候変動対策とSDGsに縦割りで対応した場合、財源不足や雇用喪失、飢餓のリスクが高まることを指摘し、両者の取り組みを同時に進めるシナジーの推進により、資金ギャップを減らし、世界目標を迅速に達成し、公正な移行が確保できることを示していると強調しました。そして、ガバナンスや資金フロー、知識・データの分断化を打破するために求められる具体的な行動を紹介しました。第一に、制度的協調を図り、共通のビジョンを以って政策課題に対処し、シナジー推進の枠組みやツール、リソースを提供することが求められるとしました。第二に、現在の金融アーキテクチャーにおいては、気候変動対策とSDGsへの対応に必要な投資、そして気候変動にレジリエントなインフラや食料システム、適応といった最重要分野への投資が不十分であることを認識する必要があると指摘しました。そして第三に、シナジー推進の資金的ニーズへの理解向上、気候変動と移行に伴う物理的リスクの反映、官民共同ファイナンスの推進、およびグリーンタクソノミーなどに関する共通の概念化に資する知識・データ構築の重要性に言及しました。また、シナジー推進の実現要件として、気候変動対策とSDGsのローカライゼーション(地域化)を挙げ、都市の役割を強調しました。最後に、政策協調、包摂性、制度的能力、財務持続性、レジリエンス、変革の必要性といったレポートの主要提言を紹介しました。
ゴメス・エチェベリ氏の報告を受けて、エリック・ザスマンは、今回のレポートへのIGESの貢献について紹介するとともに、気候変動対策と他の開発課題への取り組みの間で生じる相互作用に言及しました。シナジーは、グローバルで長期的かつ不確実な脅威への対応を、ローカルで短期的かつ確実な便益に変換し、大きなシステム変革をもたらしうると述べました。自身の出身地である米国・マサチューセッツ州ミドルボロを例に、独立、自由、モビリティと住民の生活との関係性が一世紀以上前に町の交通システムをいかに変革したかを示しながら、シナジーがもたらす変革を自分に身近なこととしてとらえ、その上で、気候変動や生物多様性の損失などのグローバルな環境課題への対応に応用していくことを提起しました。
世界的な温暖化の影響が顕著となる中で、国連の温暖化対策の枠組みであるパリ協定が定める2050年までに世界的な排出量を実質ゼロとする目標(ネット・ゼロ)の達成に向けては、民間資金や技術を国際的な協力の下で積極的に導入していくことが不可欠となっています。これに向けて昨年札幌にて開催されたG7気候変動・エネルギー...
2012 年に設立された「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学 - 政策プラットフォーム(IPBES)」は、生物多様性評価に対する世界の見方を変えました。IPBESは、生物多様性とその損失のさまざまな側面に関して、複数の世界規模の報告書を作成してきました。これらの報告書は、政策立案者に生物多様性に関する一般的な傾向を知ら...
プラスチック汚染に対処するための国際条約制定に向けた国際交渉が現在進行しており、年内の合意が期待されています。プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際文書(条約)の策定に向けた第5回政府間交渉委員会(INC5)は、2024年11月25日から12月1日まで、韓国・釜山で開催されます。本条約は、プラスチック製品や利用に...
持続可能な開発のための2030アジェンダやパリ協定といった世界目標の下、持続可能な社会の実現に向けた野心的な取り組みが進められています。一方で、こうした世界目標を地方自治体の政策や計画に落とし込み、実施を図ることが課題となっており、各地の自治体では限られた財源と人員の中、持続可能で気候変動に対してレジリエント...
IGESは、日本の企業が脱炭素に取り組む際の指針となることを目指し、1.5℃目標に整合した社会への道筋を描く「1.5℃ロードマップ」をこの4月に発表しました。本ロードマップでは、脱炭素社会に向かう中で生まれるであろう社会経済の変化と、それに伴う事業機会を「5つの変化」と「20の好機」としてまとめています...
深刻化する地球規模の諸課題に効果的に対処し、持続可能な社会の実現に向けた目標を達成するためには、パートナーシップを進めていくことが極めて重要です。パートナーシップの重要性は持続可能な開発目標17(SDG 17)にも示されており、多様なステークホルダーが協力し、パートナーシップを促進することが求められています...
気候変動は、人間社会や自然に直接影響するだけではなく、それに起因する社会経済的なリスクをももたらし、私たちはそれらの脅威にさらされています。このようなリスクへの対応を検討する「気候安全保障」は、欧米を中心に活発な議論が行われてきた一方で、日本を含めアジア太平洋では比較的新しい概念として位置付けられ...
2021年7月に設立された「カーボンニュートラル達成に貢献する大学等コアリション」には5つのワーキンググループ(WG)があり、その中の地域ゼロカーボンWG(国内89の大学・組織が所属)では「大学と地域はどのように連携を推進するか」を議題のひとつとして取り上げてきました。多くの大学がその実現に苦労している...
高橋康夫IGES所長は、今回のISAP開催にあたり支援を頂いた関係機関、各セッションのスピーカー・パネリスト、そして会場およびオンライン参加者に改めて深い謝意を示しました。IGESでは4年間の統合的戦略研究計画のもとで研究活動を実施しており、今回のISAPは第8期計画の最終年の実施であるとして、IGESが同計画において注力している統合的アプローチの推進を全体テーマとして取り上げ、多様なステークホルダーとともに活発かつ有意義な議論を展開することができたと振り返りました。国連経済社会局(UNDESA)および国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局が共催し、IGESが協力を行ったパリ協定とSDGsのシナジー強化に関する国際会議での議論、気候変動とSDGsのシナジーに関する専門家グループによる第2次グローバルレポートの公表、そして日本のイニシアチブによる第6回国連環境総会におけるシナジー推進のための決議の採択など、シナジー推進へ向けた国際展開にIGESが深く関与・貢献していると強調するとともに、これらの議論はポストSDGsの検討にもつながるとの展望を示しました。また、統合的アプローチの実践をテーマにIGESが総力を挙げて執筆を行い、最先端の議論を収めた新刊書籍についても改めて紹介しました。最後に、記録的な猛暑が続き、トリプル・クライシスの加速が身をもって感じられる中、対策には一刻の猶予もないと強調し、IGESは社会を変革に導くチェンジ・エージェントとして、多様なステークホルダーとの連携のもと、統合的な観点からインパクトのある政策提言をタイムリーに行い、地球規模課題の解決に向けて取り組みを進めていくと述べました。
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