録画映像
要約
本セッションでは、IGESが2026年度より開始した気候安全保障に関する外務省補助金事業「気候変動下における日本とインド太平洋地域の安全保障の実現」におけるアプローチや具体的な研究テーマについて検討しました。
はじめに、モデレーターの久留島啓は、気候変動を安全保障上のリスクとして捉える「気候安全保障」の概念を整理し、食料・水・人間・経済といった各分野の安全保障が気候変動によって連鎖的に脅かされ、紛争リスクへと発展しうる構造について説明しました。また、本事業のアプローチについて、食料・エネルギー安全保障、シーレーンの防衛、気候安全保障の地域化、国際ルール形成という4つの統合的研究領域を通じて、日本とインド太平洋地域の安定に貢献する研究計画を説明しました。
関山健氏は、気候変動が伝統的安全保障に影響を及ぼす3つの経路(軍による温室効果ガス排出、軍事施設・装備への物理的影響、安全保障環境の複雑化)を整理した上で、海洋秩序への影響として、脱炭素化に伴うシーレーンの重要性の変化と、海面上昇による島嶼・環礁の水没が領海・排他的経済水域(EEZ)の消失につながるリスクを指摘しました。特に沖ノ鳥島の水没可能性を例に、日本の国土面積を超えるEEZの喪失や中国との対立激化のリスクに言及し、北極海航路をめぐる米中露の勢力争いも含め、本事業における3カ年の研究計画として、政策比較分析や住民意識調査に取り組む方針を示しました。
木村直子は、インド太平洋地域が地政学的緊張の激化と気候変動による脅威の増幅という「二重の危機」に直面していると指摘しました。また、気候安全保障の議論が現地の社会・文化的文脈を十分に反映していない現状や、気候変動適応支援が特定国による影響力拡大の手段として政治化する懸念を課題として提示しました。東南アジア諸国連合(ASEAN)・大洋州島嶼国等との連携により「統合的地域気候安全保障フレームワーク」の構築を目指す研究テーマの内容を紹介し、早期警戒システムと適応・人道支援を連動させる研究や、伝統知・地域文化に根差したレジリエンスを重視する研究を軸に、トップダウンの国際議論とボトムアップの現地の知見をつなぐ双方向的ガバナンスのアプローチを説明しました。
岡野直幸氏は、「環境×安全保障」の議論の系譜を振り返りつつ、気候変動が資源の脆弱性を通じて移住・資源競争・政治的不安定化・紛争といった帰結を招く「脅威の増幅要因(threat multiplier)」として機能する構造を説明しました。2007年の安保理公開討論以降の気候安全保障をめぐる国連の主な経緯や、気候安全保障メカニズム(CSM)のイニシアチブを紹介した上で、国連システムの揺らぎと気候ガバナンスの再構築が同時に進む中で、国連外交・経済外交・気候外交を統合し、インド太平洋地域の安定と経済安全保障につなげる研究の方向性を示しました。
加藤拓氏は、損害保険ジャパン株式会社が1888年の創業以来受け継いでいる「HIKESHI DNA」の精神を紹介し、火災から人々の暮らしを守ってきた原点が、激甚化する自然災害への対応や防災・減災といった現代の社会課題解決へとつながっていると述べました。新環境戦略「SOMPO Earth Positive Actions」のもと、気候変動・生物多様性・循環経済を統合的に捉える「シナジーアプローチ」を推進しており、保護地域以外で生物多様性保全に資する地域(OECM)100カ所プロジェクトやSAVE JAPANプロジェクト、CSOラーニング制度など、地域ネットワークを活かした生物多様性保全と人材育成の取り組みを紹介しました。
サマリ―作成者: 久留島 啓(IGES)
パネル討論


パネリスト
関山 健
京都大学大学院 教授
財務省で予算編成や法令起案、外務省でアジア向けODA立案や経済連携協定の交渉などの政策実務を経験した後、日本、米国、中国の各大学院で学び、大学・公益財団法人等を経て、2019年4月より京都大学。専門は国際政治経済学、国際環境政治学、比較政治経済学、国際教育学。




